21世紀は環境の世紀すなわち農業の世紀

駒ヶ根ガーデンファーム構想への提言―その1
2001年1月17日、その後加筆
小 原 茂 幸

人類の歴史は「食」への追求の時代でした。
何のために働くのかと問われれば、
多くの人々が食べるため、
家族を養うために働くと答える事でしょう。
人類60億人の3分の2は飢えています。
かつて私達日本人もそうでした。
「主食(主食である米)を作らなくても良い」という状況は、
人類200億年、文明5000年の歴史の中で、
ここ数十年のこと、だけです。
人類の多くの民は、今でも飢餓と闘っています。

農業は環境と密接な関係にあります。
農業が持つ多面的な要素は住環境を良くし、
癒しの空間を創造しています。
かつて父が言いました。
「農業じゃ儲からん。金持ちになりたいものは農業はしない。
じゃあ、なぜ稲を作り、米を作るのか。
雪が融けて春になれば身体がむずむずしてくる。
苗代を作って、田を植えて、田圃が緑に変わる。
稲が風にそよぎ稲穂が実る。
土と水に戯れ、お天道様の動きを気にする。
働いて、汗をかいた後のお酒は美味い。
収穫の季節は、野山も錦秋に変わる。
見ているだけでも、気持ちが良いじゃろう。
精神衛生上、農業をやっているんだ。」
兼業農家の主人らしい言葉である。
百姓は、秋になると米の「でき」を心配するが、
今年どれだけ儲かったかを計算する人は少ない。
でも、お金には換算できない豊かさがありました。
欧州のとある国のりんごの果樹園。
「私はこの村の、このりんご畑の風景が好きです。
ここの風景は、心が癒されるのです。
この景色をいつまでも、我が子の時代にも残したいがために、
この村のりんごを毎年、買いに来るのです。」
農業それは環境に深く関わる産業です。

そして21世紀は環境の時代だと言われています。
大気汚染、地球温暖化、環境ホルモン、ごみ問題、食料問題等、
私たちを取り巻く環境は大きく変わろうとしています。
身近な住環境をより良いものにすることこそが、
安全で快適な暮らしの創造につながるものと感じます。

多くの食料が輸入によってまかなわれています。
輸入食品には、生産の場が見えてきません。
食品に関しては安全性への要望が日増しに高まっています。
昔、家内は夏ばての頃になると、レバー炒めをよく作りました。
しかしある時からばったり作らなくなりました。
なぜなら、肝臓には抗生物質、成長促進剤、薬物などが溜まると考えたからです。
また、ある時からバナナの端を食べてはいけないと言いはじめました。
農薬が残る比率が高いからだと言います。
自給率が40パーセントを切る国に生きています。
輸入食料のみならず、輸入飼料の中にホルモン剤や抗生物質が既に含まれています。
安全だといわれている遺伝子組替え食品も、
数世代を経なければ、安全だという保障はありません。

一方、少子高齢化社会の到来によって様々な問題も生じつつあります。
それは雇用の問題です。
地方では若者の働き口が少なくなっています。
特に高学歴者の雇用が厳しい状況です。
年末、父がお寺さんへの寄進張をもって、いくつかの家を回りました。
「昔からの旧家ほど、寒かった。
子供たちは学力をつけるために大学に出した。
しかし、それに見合った就職先は田舎には見当たらない。
都会で就職する、やがて結婚をし、家庭を持って家を建てた。
田舎にはたまにしか帰って来ない。
大きなお屋敷に、爺婆がぽつねんとして年の瀬を迎えている。
暖房機を置いた居間だけが暖かく、お屋敷は寒々としていた。」
2000年12月29日、私は新潟県新井市の、同業の経営者を訪ねました。
新井市は上越市の隣に位置する人口3万人を切る地方都市です。
「この年の瀬に、近隣を見まわして見て、
一番幸せそうな家庭は、
息子が高校を卒業して地元に就職し、めでたく結婚。
嫁が子育てをし、まだ若い姑はパートで稼ぎに出ている。
祖父母が居て孫が居て賑やかで、幸せそうだ。
ところが、跡取り息子が頭の出来が良くて、
大学に進学し、更に理工系だときたらたいへんだ。
大学院まで進学し、就職しようと思って田舎を探しても、
それに見合った働く場所が無い。
結局、年老いた父母が静かに家を守っている。
正月は帰省して賑やかでも、数日で淋しい冬が待っている。」
地域の活性化のためには、都会に行った若者が帰郷して住みたくなるような、
健康で安心して暮らせる住環境造りが求められています。

故郷に求められるものは食(職)と人(生きる仲間)です。
新しい雇用の創造が求められています。
そこで、美しい自然環境とこの地で培われた文化を基にして、
ガーデニング(庭)とファーム(農園)による地域興しを提案します。
農業は食を生産するばかりではなく、環境を創造します。
美しい景観は人を惹きつける要素があります。
一戸一戸の多様性を持った農家がネットワークを組み、
地域全体に美しい景観を創造しようではありませんか。
同時に、食の安全性を確保し、スローフードを再発掘しましょう。
食は故郷にあり。食は文化です。

キーワード
@「都会に行った子供が、帰郷して住みたくなるような環境作り」
A安全で快適、健康的な住環境の創造
(1.自然環境、2.交通環境、3.医療環境、4.教育環境、5.ショッピング環境)
B「物の時代から心の時代へ」、「癒し」の時代(やすらぎ、ほっとする場所)
C大量生産、大量消費、大量廃棄システムからの転換
(「効率化」「市場経済」絶対視への疑問―地球温暖化への警鐘)
D地方の時代における「地域自給」と「地産地消」システム
(食とエネルギーにおける自給率の向上―輸送費用削減)
E美しい街(農村)造りをめざす「駒ヶ根市全域公園化構想」
F雇用の創造、健全財政の確保、「物を造って収入を得るか、人を呼んで収入を得るか」
G地場産業は「兼業農業」、農業従事者の平均年齢は60歳以上
H消費者の利益と国益(セーフガード、ユニクロ方式)
I食農の時代として「安全なものを旬に食べる」ことの重要性
J成人病、生活習慣病と食生活(日本食、田舎料理の見直し)
Kガーデニング(庭)とファーム(農園)の時代的要請
L消費型経済から体験型経済へ(幸福感における「食」−スローフードの再生)
M地域農業再生プラン
N同じ価値観を共有するコミュニティーの創造
O「共生の時代」、協業の必要性、集合農場、共同農場
P他の有機野菜産地とのネットワーク化
Q地球環境への配慮(エネルギー、産業廃棄物、生ゴミ、家庭ゴミ、バイオマス等)
R少子高齢化社会の到来と地域伝統文化の再生、復興、継承
S多様性とネットワーク「人を呼ぶ仕組み(仕掛け)」−町興し

駒ヶ根市をガーデンファームのメッカとして発展させ、
同じ価値観を共有する人々との連携を図りたいと思います。
さらに駒ヶ根のブランドを築き、
住環境を整備することによって、
集客能力を高め、
新しい産業を興し、
ひいては三世代が同居できる、
世界で一番住み良い街を創造したいと考えます。






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