「懐かしい歌」の存在

駒ヶ根市 北沢吉三(元駒ヶ根市赤穂公民館長)

 2005年8月突然、東京在住で少年期を地元(駒ヶ根)で過ごされた70歳台の男性から、 駒ヶ根高原で歌声喫茶「ともしび」の集いを開催したいので協力して欲しいとの相談があった。 懐かしい響きにふと半世紀前にタイムスリップした。 
1960年前後、60年安保闘争で世の中が騒然としていた頃、私も多くの若者と一緒に歌声喫茶に通った思い出がある。 あの時代は地方の都市でも大流行していた。 当時の若者の愛唱歌は、ロシア民謡であり、世相を反映した労働歌であり、戦前戦中戦後に流行した歌であった。 司会者とアコーデオン奏者の巧みな演出もあって、溢れんばかりのホールは時を忘れ熱気にむせかえっていた。  その思い出があまりにも鮮烈に甦ってきたため、やりましょうということになってしまった。

 選りによって当日は台風来襲の悪天候、野外ステージをレストランに変更したが、 参加者も迷いながらも徐々に集まりだし、開始の時刻には70名以上の昔の若者で会場が一杯になった。 思い出の歌を満載した歌集が全員に配られ、懐かしいアコーデオンの伴奏ももどかしいほどに、 途切れることもなく大合唱が続く・・・・・・。 一同青春時代にタイムスリップした顔々・・・・・・、喉は疲れたが気力充実。

 同年3月末、秋田県で60代70代の43人が、春先の不安定な山に登山し、吹雪に迷い込む。 そのとき「青い山脈」や石原裕次郎の歌を合唱し、雪の中で一晩過ごし全員無事に下山した。 また、その前年の豪雨のとき、濁流の中に取り残され水没したバスの屋根で、 やはり中高年男女が、身を寄せ合い励ましあって一夜を全員無事乗り切った。 この時も懐かしい歌を合唱し続けたとか・・・・・・・。
いずれもかなり厳しい状況下にあったが、歌が全員の一体感を強め、気力をしっかり作り上げていたのだろう。

 最近はこんな経験をした。 認知症の人たちが生活している施設へ、度々お邪魔してハーモニカを吹いている。 童謡唱歌やお年寄りの知っている懐かしい歌を選んで一緒に歌ってもらうようにしている。 黙ったままじっとしている人が多いが、時折豊かな表情をふと見せることがある。 職員の皆さんもビックリするほど声を出して歌う人も・・・・・・・・。ある時は。 昔のことを思い出してか、あの時はこんなことがあったとか、職員に一生懸命、話す姿も見かける。 終わったあとは気持ちも落ち着いて表情も豊かになるようだ。

若い頃みんなが歌った、懐かしい歌の効用を改めて実感するこの頃だ。



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